潰瘍性大腸炎病診連携システム
1. 潰瘍性大腸炎の概念
潰瘍性大腸炎は、主として大腸の粘膜と粘膜下層をおかす、原因不明の炎症性疾患です。通常血性下痢と種々の程度の全身症状を示します。長期にわたり、かつ大腸全体をおかす場合には悪性化の傾向があります。
2. 病診連携の必要性
現在潰瘍性大腸炎患者の多くは病院に通院しています。病院では軽症から重症まで、すべての重症度の患者に対し、重症度に応じて様々な治療を行っています。しかし、患者数は継続的に増加し、治療手法の複雑化のため、病院医師の負担が大きくなっています。
一方患者さん側からは、病院への通院では学校や仕事をまる一日休まねばならない。潰瘍性大腸炎の治療で病院に通院し、他疾患の治療で診療所にも通院しているので、時間や費用が余計に掛かっている。診療所でまとめて診てほしいが、やはり病院とつながっているという安心感は欲しい。などの意見が聞かれます。
そして多くの診療所医師は、潰瘍性大腸炎を診てはいるものの、十分な観察ができているか、治療は万全か確信が持てない。あるいは、難病を診るリスクを冒したくないので、潰瘍性大腸炎の診療は病院に任せている。といった意見が聞かれます。
以上から、病院、患者の負担を軽くするために、診療所も潰瘍性大腸炎診療の一翼を担う病診連携(図1)が有用で、それを実現するために、診療所に負担感の少ない簡素な潰瘍性大腸炎病診連携パスを作りました。
図1
3.潰瘍性大腸炎病診連携パスの説明
3.1. パス表の構成
パス表(図2)上部が基本情報記入欄です。
左側が病院医師記入欄です。病院医師は大腸内視鏡を施行し、罹患範囲とMayo endoscopic subscoreを記入し、所見用紙を添付してください。さらにpartial Mayo score、赤沈、Hb、CRP、LRGを記入してください。5-ASA製剤だけで軽症維持されていることがパスの必須条件ですので、重症度と治療内容が条件を満たしていることを確認してください。
右側が診療所医師記入欄となります。診療所医師は原則3か月ごとに体重、排便回数、血便の状態、体温、脈拍、Hb、CRPを調べ、患者の重症度をチェックしてください。LRGの測定は必須ではありません。治療薬の変更や連絡事項があれば記入してください。1年ごとに病院に紹介します。血液検査は病院で行うので、直前の検査は不要です。
図2
図3
3.2. パス表のポイント
5-ASAで寛解維持できている軽症患者がこの病診連携パスの対象です。原則として、診療所は病院の処方を引き継いでください。観察項目、検査項目はどこの診療所でもできるものに絞りました。1年に1回大腸カメラを病院で行い、活動性の評価と大腸がんのチェックを行います。パス表で中等症以上となったら病院への途中紹介を考慮してください。1年に1回パス表を添えて病院に紹介してください。病院で重症度と活動性の再評価と治療方針の見直しを行います。パス表の欄外(図2)と裏面(図3)に注釈と資料を載せましたので、必要に応じてご参照ください。
3.3. 連携病院
2024年3月現在の連携病院は、静岡市立静岡病院、静岡県立総合病院、静岡赤十字病院、静岡済生会総合病院の4病院です。
3.4. 病診連携パスの流れ
もし診療所の先生方のところに、病状が安定している潰瘍性大腸炎の患者さんがおられましたら、診療情報提供書に連携希望と書いて病院に紹介してください。病院でチェックを行い問題なければ、パス表を添えて診療所にもどし紹介し、病診連携を開始します。診療所の先生は、パス表に従い患者のフォローを行い、1年後にパス表を添えて病院に紹介します。病院の先生は、大腸がんのチェック、活動性・重症度の再評価と治療方針の見直しをし、問題がなければ再び新しいパス表を添えて診療所にもどし紹介します。
また、診療所で治療に難渋している潰瘍性大腸炎患者があれば、病院にご紹介ください。病院で寛解導入後、条件を満たせばパス表を添えて診療所に戻し紹介します。もし診療所でフォロー中に再燃する場合は、パス表を添えて臨時に病院に紹介してください。
もし病院に5-ASA製剤で寛解維持されている軽症の潰瘍性大腸炎患者がいれば、パス表を添えて診療所に紹介し、病診連携を開始してください。