これからの、地域医療を考える。
静岡市静岡医師会では、1診療科1疾患・2人主治医制を基本に総合(基幹)病院医師と診療所医師が患者さんの医療情報を共有し、役割を分担することで効率 的で質の高い医療を提供する病診連携への取り組みを推進しています。この総合病院(病)と診療所(診)の協力からなる病診連携は1996年(平成8年)の 「かかりつけ医推進試行的事業」がその発端となり、一疾患二人主治医制の病診連携モデルとして日本全国の先駆けとなっています。刻々と変化する医療への ニーズを満たすと共にご家族様の不安や不便の解消を実現するために、イーツー(医2)ネットではそれぞれの医師が勤務医と開業医の垣根を超えた信頼関係 を構築し、地域医療に対する共通理念のもとで盤石な病診連携システムを築きあげることができました。
市民がみる診療所と病院の長所と欠点、アンケート結果
そして「安心できる在宅医療の実現」をテーマに検討を重ねた結果、まずは在宅医療を受けられる患者さんが安心して終末期医療を受けることのできる体制作りに着手することから始めます。その先駆けとして平成10(1998)年に在宅医療支援看取りシステム「グリーンカードシステム」を、翌平成11(1999)年に在宅医療後方支援病院連携システム「イエローカードシステム」の運用を開始します。
そしてこれらの在宅医療支援システムの形成の波及効果として、静岡市静岡医師会と公的5病院間の連携は以前に比べて非常に活発なものとなりました。
「病院の良いところ、診療所の良いところを生かす医療の実現へ」 また、静岡市静岡医師会は終末期医療の分野のみならずアンケートで多数のご意見やご回答を頂いた「病院と診療所の評価」に着目し、静岡市民の皆様が安心出来る医療を実現する為の病診連携制度を推進することとなります。
高度な先端医療を受けることが出来る病院と、患者さんの些細な心配事にも気軽に応じてくれる診療所。そのお互いの良さを生かす医療を実現するために、従来通りの病院と診療所が独立した状態の医療を自己完結型医療、地域の病院と診療所が協力して一人の患者さんを支える医療を地域完結型医療と 位置づけ、患者さんや市民の皆様が中心の医療を実現することが。 折しも厚生労働省が病院と診療所の役割区分を明確にする「機能分化推進策」を平成13(2001)年の第4次医療法改正で打ち出していたことも、静岡市の 病診連携制度の確立を加速させる要因となりました。それを受けた静岡市静岡医師会は病診連携協議会を設置し、地域完結型医療を実現するための本格的な病診 連携システムを構築するべく病院との検討を重ねました。
そして平成13(2001)年、静岡市静岡医師会は静岡市立静岡病院との間で疾患別2人主治医制の病診連携システム「イーツーネット」の運用を開始します。
初期のイーツーネットでは糖尿病や脳梗塞、慢性腎不全を始めとする8科の疾患を病診連携の対象とし、静岡市立病院への登録医制度のもと病院と診療所間で共通の患者さんの医療情報を取り扱うことを基本とした「顔の見える連携」を目指していました。
このシステムでは診療所の医師が疾患毎に登録医として病診連携に参加し、対象の疾患を抱える患者さんを診療所から病院へ紹介する段階から始まります。
紹介先の病院での初診が終わると共に患者さんを紹介元の診療所にお戻しし、その後は診療所が日常診療を行いながら定期的に病院へ紹介します。
この一連の流れによって医療行為における日常診療と定期検査の役割を分離することが可能となり、病院と診療所はそれぞれの機能分担を実現することが出来ます。
これらの機能分担は限られた静岡市の医療資源を効率的に利用するための足掛かりとなり、静岡市の医療を将来的な視点から見据えた試みでもありました。
他の病院でも同様に、県立総合病院のプライマリケア研究会、静岡赤十字病院のパートナー診療制度、静岡済生会総合病院の病診連携制度と言った病診連携への取り組みが病院ごと、科ごとに手探りで始まり、さながら静岡市は病診連携制度の黎明期を迎えます。
手探りの状態から始まった初期の病診連携。
これらの病診連携制度は連携安心カードの開始や、病院へ紹介される患者さんが増えるなど一見成功したかのように思えました。
しかし、病院から診療所への紹介、いわゆる逆紹介の件数も紹介件数と同様に増加したとは言い難く、病院が紹介元の診療所に患者さんを戻さないことや診療所の医師が病院への定期紹介を怠るなど、病診連携が実際に運用されることで浮き彫りとなる問題点が次々と現れました。病診の連携を始めるにあたり、静岡市静岡医師会と病院の間での検討会で想定された問題とその対策を以下に挙げます。
- 初期の病診連携(顔の見える連携)の問題点
- 各病院ごと、各科ごと、診療所ごとに取り組み方が違うこと(病院ごとに異なる制度
- 病院も診療所も病診連携患者である事を忘れる
- 紹介患者をかかりつけ医に返さない
- 逆紹介患者を病院に戻さない
- 継続的に病診連携を行う患者が増加しない
- 顔見知りの連携に留まり、参加医師が限定されてしまう
これらの問題点の根底には、病院と診療所間で更なる信頼関係を醸成する必要性や、病診連携が目指す地域医療を実現するための共通理念を再確認しなければならないことなど、病診連携そのものの難しさが見受けられました。
そこで静岡市静岡医師会ではこれらの問題を解決するためには病診連携協議会と病院の病診連携室による協力が必要不可欠とし、病診連携の理想的な形を模索することとなります。
病診連携制度をより確固たるものにするために新たに取られた試みは、各病院による「連携安心カード」の発行と静岡医師会の手によって起稿された「地域クリニカルパス」の導入でした。 連携安心カードが発行された患者さんは病状が急変した時に医療情報のある病院で診療を受けることが可能となり、万が一の際にも安心して病診連携を受けることが出来ます。
また、病院医師は患者さんを診療所に逆紹介することがより容易となり、診療所のかかりつけ医は病状の重い患者さんを万全の体制で受け入れることが出来るため、患者さんと病院・診療所の三者が負担を共有出来る制度が出来上がりました。
平成16年の連携安心カードの発行開始に伴い紹介患者数は爆発的に増加し、現在の病診連携ネットワーク「イーツーネット」の礎となりました。 地域クリニカルパスの導入も また、それらの病院-診療所間の円滑な連携のみならず行政や介護、福祉といった医療に密接に関連する分野との協力を実現することで 疾患毎に1人の患者さんに対して病院医師と診療所医師の2人が主治医となり、お互いの役割を分担し、患者さんを支える。
イーツーネットはこの理念のもとで対象とする疾患と病診連携に参加する診療所を拡大し、患者さんが安心して医療を受けられる体制づくりを実現するために行っています。