1.連携システム発足までの経緯
静岡市静岡医師会では、平成10年に市民に対してかかりつけ医の在り方に関するアンケートを行いました。その中で、市民の約3分の2は在宅医療において、家族の負担、夜間休日の救急対応、病状悪化時の対応に関して不安を持っていることがわかりました。一方、同時に市民は診療所の長所として、往診対応や何でも診てくれるといった点を挙げ、短所として、急変時の入院対応ができないといった点を挙げていました。他方、病院の長所として、専門治療や救急対応を挙げ、短所としては往診ができないことと同じ医師による継続医療が難しいことを指摘していました。
そこで医師会は、診療所と病院が連携して医療を行うことによって、患者さんやご家族と、そして医師もが在宅医療を受け入れられ、市民が安心して暮らせる社会が実現できるのではないかと考え、在宅医療における連携体制の構築に取り組みました。
2.システムの概要・特徴について
(1)グリーンカードシステムの構築(在宅看取りのための診療所連携システム)
在宅看取りを支援する目的で、静岡市消防署の協力を得て平成10年に構築しました。
これは、在宅看取りを希望する患者さんが看取りの状態になったとき、何らかの事情により主治医と連絡が取れない場合に、在宅往診当番医が看取りをするシステムです。
(2)イエローカードシステムの構築(急変時に病院を受診する場合の病診連携システム)
在宅患者さんの病状急変時に、速やかに病院に搬送し受け入れてもらうためのイエローカードシステムを、静岡市消防署と市内5つの公的病院の協力を得て平成11年に構築しました。
(3)シルバーカードシステムの構築(往診を含めた幅広い地域連携システム)
在宅患者さんからの緊急往診や緊急訪問の依頼があった時、在宅主治医やかかりつけ訪問看護師等と連絡が取れない場合に、在宅往診当番医や当番訪問看護師に連絡がいき、往診や訪問看護をするシルバーカードシステムを、静岡市消防署と葵・駿河区14訪問看護ステーションの協力を得て平成18年に構築しました。現在は25の訪問看護ステーションの協力があります。
3.運用の実際
(1)グリーンカードシステム
システム運用の実際は以下のとおりです。(図1)
在宅主治医は患者さんご家族にこのシステムを説明し、同意を得ます。
在宅主治医はあらかじめ「在宅患者サマリーカルテ」に患者情報を記載して、グリーンカード(図2)と一緒に患者さんのベッドサイドに置きます。
患者さんが看取りの状態となるも主治医と連絡がつかないとき、患者さんご家族はグリーンカードに記載してある手順で静岡市消防署に連絡を入れます。
静岡市消防署は、あらかじめ静岡医師会から連絡されていた在宅往診当番医表をもとに、往診依頼の連絡を入れます。
連絡を受けた在宅往診当番医はその患者さん宅へ往診し、看取りの診察をします。
(2)イエローカードシステム
システム運用の概要は以下のとおりです。(図3)
在宅主治医は患者さんご家族にこのシステムを説明し、同意を得ます。
在宅主治医はあらかじめ「在宅患者サマリーカルテ」に患者さんの情報を記載して、イエローカード(図4)と一緒に患者さんのベッドサイドに置きます。
患者さんが急変し、速やかに病院の受診が必要であるとご家族が希望した場合、あるいは主治医が判断した場合などの時、患者さんご家族はイエローカードに記載してある手順で静岡市消防署に連絡を入れます。
静岡市消防署は出動し、連携先の病院に患者さんを搬送します。その際、ご家族はイエローカードを持参します。
(3)シルバーカードシステム
システム運用の概要は以下のとおりです。(図5)
在宅主治医は患者さんご家族にこのシステムを説明し、同意を得ます。
在宅主治医はあらかじめ「在宅患者サマリーカルテ」に患者情報を記載して、シルバーカード(図6)と一緒に患者さんのベッドサイドに置きます。尚、このシステムではイエローカードシステムも包含しますので、イエローカードも一緒に置きます。
患者さんが急変し、ご家族が緊急往診や緊急訪問を希望し、在宅主治医やかかりつけ訪問看護師に連絡がつかない場合、患者さんご家族はシルバーカードに記載してある手順で静岡市消防署に連絡を入れます。
静岡市消防署は、あらかじめ静岡医師会と訪問看護ステーション連絡会から連絡されていた在宅往診当番医表と訪問看護当番表をもとに、その日の在宅当番医と当番訪問看護ステーションに、往診依頼の連絡を入れます。
連絡を受けた在宅往診当番医あるいは訪問看護師は、その患者さん宅へ往診します。
(4)当番医の実際
在宅当番医は、平日が18時から翌日6時まで、土曜日は13時から翌日6時まで、休祭日が6時から翌日6時までとなっています。 当番医の回数は、平日が約3ヶ月に1回、土曜日が約1年に1回、休祭日が約9ヶ月に1回廻ってきています。合計1年間に6回ほど当番が廻ってくることになります。
在宅医療協力医制度
在宅主治医はその多くが内科や外科の医師であり、在宅患者さんの医療全般を診ることができますが、褥瘡等の皮膚科疾患や婦人科系の疾患等に関してはそれぞれの専門医に診察をお願いしなければならない場合があります。そのような時、あらかじめ往診が可能な診療所がわかっていると助かります。そこで、患者さん宅に往診可能な皮膚科、整形外科、婦人科等の診療所を登録し、訪問診療を行っている診療所に公開しています。
システム運用の概要は以下のとおりです。(図7)
在宅主治医は、患者さんやご家族に他科の医師の往診が必要なことを説明し、
同意を得ます。
在宅主治医が往診のできる他科診療所宛に紹介状を作成し、ご家族がその紹介状を持ってその診療所を受診します。
そこの医師とご家族で、往診日、時間を決めてもらい、往診していただきます。
4.連携システムの登録患者数などの実績について
令和6年3月末現在、登録診療所数63件、登録医師数66人、登録患者数は、グリーンカード13人、イエローカード56人、シルバーカード0人です。当番医の出動実績は、平成26年が
2件、平成27年から令和元年までは毎年0件でしたが、令和2年に1件の出動があり、その後はまた0件が続いています。